金沢・加賀・能登 頑張るお店 肉のいまえだ
自らの手で飼料となる麦や大豆から育て、その飼料を中心に育てた豚肉を自店だけで販売する、100%商品に責任の持てる豚肉を販売している精肉店が、かほく市の宇野気駅前商店街にある「肉のいまえだ」である。
その自信作『河北潟ポーク』を看板商品に掲げ、地域に根ざした商いに邁進する今枝裕伸社長にお話を伺った。
●創業80年余の老舗
今枝社長の祖父は大工仕事をはじめとして様々なことをこなした器用人で、昭和初期に料理屋を開業したのが、食に関わる今日の商いの原点。その頃から養豚も手がけ始めていたという。
その後、2代目となる父が昭和44年に「肉のいまえだ」の旧店舗を構え、専門店として肉屋に専念することとなる。遡ること26年前、その父の後を継いだ裕伸氏が店の切り盛りを担当し、父が河北潟ポークの養豚に専念する形で今日に至っている。
「肉屋の商いは細く長く、利益は少ないが、地道にコツコツとやっていれば家族が食べていく分は何とかなるという思いでこれまでやってきましたが、BSE問題が起きた時は牛肉が全く売れなくなり、豚肉と鶏肉だけで、かなりきつかったです。」と当時を振り返る。
その後も後を絶たない食品偽装問題が相次いでいるが、「安全性にはずっとこだわってやってきていますが、お客様からすれば、どこでもそんなことをやっているのじゃないかという目で見られるだけに、なかなか大変です。」と唇を噛む。
●自家養豚の「河北潟ポーク」
かほく市内の内日角(うちひすみ)地区に広さ1000坪あまりの自前の養豚場を所有し、200頭あまりの豚を飼育している。河北潟で自家栽培した麦と大豆を飼料として与え、身の締まりのいい豚を育てるべく邁進している。
「親父が一人で豚の世話をしているため、これ以上増やすことができず、量的には自店で販売する分を確保するのが精一杯なのが現状です。」と増産への思いを滲ませる。「河北潟ポークは生産量が少ないため、時期によっては店頭に商品がない場合もあるので、事前に問い合わせて欲しい」とのこと。
丹誠込めて育てた我が子同然の豚だけに、安全・安心という面では太鼓判を押せる商品である。そこまでこだわっている豚だけに「河北潟ポーク」をブランド豚として売り込むべく商標登録を申請するも、生産量が少なすぎて却下されたという。しかしながら、生産量が少ない稀少な豚の方が、消費者にとっては魅力的な食材でもあるわけで、そのあたりはPRの工夫次第でヒットする可能性があるのではないか。
同店の牛肉は、佐賀牛・能登和牛・上州和牛の3ブランドに絞って扱っている。なかでも社長の一押しは佐賀牛だ。生産量が多く、品質も安定し、価格も安定している。何よりも霜降りやサーロインのジューシーさは一度食べると癖になる美味しさとか。
●店頭販売のウエイトが拡大
かつては、飲食店や給食関係の卸部門が店頭販売を大きく上回る商いをしていた同店だが、バブル崩壊後の長引く不況下にあって、駅前商店街にあった飲食関係の店が次々と廃業して半分以下となり、今では売上に占める比率が逆転し、店頭販売の売上が6割近くを占める。
平成17年に店舗を新築するまでは、日々の来店客数も少なく、先行きを不安視していたようだが、現在の店舗になってから来店客数は増加傾向で、順調に推移しているとのこと。 惣菜類の売上もなかなか好調のようで、コロッケ、トンカツ、唐揚げのほか、週1回木曜日の夕方限定で販売する肉団子は、販売開始から2時間で300本を売り尽くす人気ぶりだ。夕飯のおかずはもちろんのこと、学校帰りの高校生がおやつ替わりにコロッケを買って頬張る姿は昔も今も変わらない。
●お客様第一に徹す
平成20年、イオンの大型ショッピングセンターが近隣にオープンする。「当分は影響を受けると覚悟していますが、その期間が3カ月なのか半年なのか、あるいは1年なのか、店頭はかなり暇になるだろう・・。」と予測する。
「環境はどうあれ、来店してくださるお客様を第一に、店売りの商いをしっかり守っていかなければなりません。」と自らに言い聞かせる。
このところの原材料高の影響で、豚肉と鶏肉の価格上昇が顕著だという。自前の河北潟ポークに食べさせる麦や大豆を育てる肥料の値上がり、配合飼料の値上がり、トラクターの燃料であるガソリンの高騰と三重苦である。こうした要因から小売価格が上昇するのはやむを得ない状況ではあるが、「当店の場合は、人を使わずに家族だけでやっているため、その分お客様に品質の良い肉を他店には真似のできない価格で提供しています。」とぎりぎりの努力を続けている点をアピール。
●お客様に喜んでもらうために・・・
「寒い時期に高校生たちが店の外で震えながらコロッケを食べている姿を見て、中に入って食べなさいと言えるような休憩スペースを作りたいと前々から思っていました。その思いをさらに発展させて、どうせ作るのならうちの商売にプラスになるように、新築するにあたって焼肉コーナーを併設しました。」と笑顔で語る。
店内の一角に設けられた休憩室兼焼肉コーナーは、肉だけ同店の商品を使うことを条件に、あとは野菜類、魚介類、アルコール等全て持ち込み自由で、燃料費等の実費だけをもらってスペースを提供している。このサービスはなかなか好評で、多い時期は毎週末に利用されているとのことで、店にとって新たな付加価値がプラスされた格好だ。
●お客様に美味しいものを提供する
何よりも自家養豚の河北潟ポークがあることは他店にない強みであり、この商品の肉質を高める努力を重ね、石川県を代表するブランド豚に育ててもらいたいものである。そのためにも、生産量の拡大と河北潟ポークを使用したウインナーなどの新たなオリジナル商品の開発が、ブランド化に向けての鍵を握ってくると思われる。
「お客様に美味しい肉を食べて喜んでいただきたいとの思いで、お客様に支えられ、これまで商いに専心してきました。これからもその気持ちを大切にして商いを続けていきたい。」と決意を新たにする今枝社長にとって、河北潟ポークをブランド豚に登録するという長年の夢が1日でも早く実現することを願って止まない。
インタビューを終えて・・・
家族経営だからできるリーズナブルな価格設定、アットホームな接客で、「いまえだへ行けば美味しい肉が買える」とお客様に思ってもらえる商いに徹する小売店の鏡とも言える店舗である。これからも家族が力を合わせて商いに邁進してもらいたい。