サイトを開設したきっかけ、役割や効果、そして販促やページ作りで工夫されていること、今後の目標などを取材して、頑張っているお店の魅力を紹介していきます。
能登地方は、日本を代表する「能登杜氏」を代々輩出し日本酒醸造の伝統が連綿と受け継がれてきている地域である。そんな能登の中心都市・七尾市において、ワインの美味しさ、楽しみ方を独特の話術と人間的な魅力で伝え、ファンを増やしているのが、(有)西田酒店のマダム櫻子こと西田櫻子さんである。マダム櫻子のワイン談義に耳を傾けてみよう。
● ワインとの出逢い
今でこそ知る人ぞ知る、ワインを語らせれば一家言あるマダム櫻子さんだが、この世界に入ったのはなんと30歳後半になった時のこと。サラリーマンだったご主人が家業の酒屋を継ぐことになり、主婦から酒屋のおかみに転身する。「この仕事を始めた頃は、ワインの右も左も分からず、ソムリエの方が付けているバッチが欲しいなぁと憧れていました」と振り返る。
マダムがワインを手がけた時代は、今から見れば黎明期で、輸入元であるビールメーカーなどが酒販店向けに開催する食事付きの試飲会が頻繁に開催されていた。当時の西田酒店は日本酒とビールが主体で、ワインはほとんど力を入れていなかったが、そうした食事付きの試飲会に惹かれ毎回参加していくうち、マダムはワインの奥深さに目覚め、お客様に商品を進める立場の酒販店が最も勉強不足だったことを痛感する。それがきっかけとなり、ワインのことをもっと知りたい、好きになりたいと旺盛な好奇心に火がつく。
「ワインメーカーが全国各地で開催する試飲会があると聞けば、金沢だけでなく、東京や大阪、名古屋まで出かけて行きました」と笑いながら話す言葉の端々に、ワインについての自らの知識をもっともっと高めたいとのマダムの並々ならぬ思い入れが感じ取れる。
● ワインアドバイザー
ワインの勉強を本格的にやりたいと一念発起し、ワインメーカーが行っている通信教育を1年間受講する。月に1回テストに回答するのだが、自宅で教材を見ながら答えを書くため、高得点が取れた。
さらに年二回、有名ホテルのソムリエが目の前でテースティングの仕方やマナーなどを指導してくれるスクーリングがあった。それにも毎回参加していたところ、そのソムリエから「皆さんも来月試験を受けられますよね」と言われ、狐につままれた思いで聞き直すと、「ソムリエとワインアドバイザーの試験ですよ」と言われ、その時まで微塵も考えていなかったが、そんな機会が目の前にあるのならと、バッジ欲しさに猛烈に勉強を始める。
初めての受験は、2日間の事前講習会を寝ないで頑張ったが、不合格。2年目には合格し、ワインアドバイザーの資格を取得する。
● 知ってもらうためのワイン教室
ワインのいろんな味を知ることで味覚を開発し、自分に向いているかどうか、美味しいかどうか、好きか嫌いかをはっきり判断でき、味覚に幅ができる。これがマダムの考えるワインの初級段階だ。
そうしたことを目的に、定員14名のワイン教室を月1回休むことなく続けて6年目を迎える。例えば、近年めきめきと評価が上がってきているアメリカやチリといったニューワールドのワインとボルドーワインを飲み比べてみる。EUのワインはアルコール度数が11~14.5%の幅で、12%が最も多い。一方、ニューワールドのワインは15%を超えるものが多い。
ワインとしての美味しさを追求すると、必ずしもアルコール度数が高ければいいというものではなく、まろやかさ、味の広がり、優雅さではボルドーが上を行くことを試飲を通して参加者に経験してもらう。そうした違いや個性を分かって飲むのと、知らないで飲むのではワインの余韻が全く異なるかだ。そうしたワイン教室の様子はホームページでも発信されている。
● ネットショップはもう一つの店の顔
ネットショップ(ワインと地酒のセレクトショップNISHIDA)は、日々ブログページを更新する、掲載内容を更新するといった具合に、常に変化がないとその見返り(注文)がないことを痛感し、東日本大震災後の落ち込みを取り戻すべく同店が取り組んだのは、ツイッターとフェイスブック。SNSを活用してマダムの強烈な個性を発信することで、西田酒店の認知度アップに貢献し、ネットショップ仲間がグループで来店するなど、実店舗への誘客に結びついている。
これだけワインに力を入れているマダムのショップだけに、売れ筋はワインと思いきや、ワインはもちろん石川の地酒もよく売れているとのこと。「当店は標準小売価格で販売しており、安売りもしないかわりプレミア価格をつけることもしていません」と力を込める。
ここだけの話、今となっては入手したくてもできないお宝的存在の貴重なワインが同店のセラーで静かに眠っている。
● ワインファンを地道に開拓
現代はもの凄いスピードで世界経済が動いているが、ワインの世界も激動の真只中にある。中国がアジアのNo.1になり、日本の市場は追い越されてしまった。残念ながらワインに対する愛情がある、愛飲されるようになったということではなく、単に中国の富裕層がステータスの一つとして高いワインを買いあさっているのだ。そんな現実を横目に、商いとは別次元で、七尾市内の公民館等から講師を依頼され、ワインとグラス持参で出かけ、ワインをより多くの人に親しんでもらう地道な活動を続けている。
「店舗でのワイン教室同様に、いろんな種類のワインを口にしてもらうことで、いろんな発見があることを皆さんに身をもって経験してもらっています。好き嫌いせずに、いろんな組み合わせを体験することで、自分の舌をトレーニングすることの大切さを地道にお伝えしています」と顔をほころばす。
ワインを売る前に、ワインの背景にある文化、歴史、風土といったそれにまつわるストーリーを理解してもらうことに力を注ぎ、そうしたことを理解した上で口にすると、ワインの味わいも奥深いものになるわけだ。
● マダム流商いの奥義
酒販店に生まれ育った場合、子供の頃から商売を見てきて、いかに売上を上げるか、売れる商品を品揃えするか、そんな観点から儲けが先行する商いスタイルになりがちだ。ところが、マダムの場合は30代後半まで主婦だったため、お酒の知識がほとんどなく、ましてやワインは未知の世界だった。
そのワインの魅力に出逢った感動や歓びが、もっと知りたい、もっと勉強したいとマダムの知的好奇心をあおり、どんどんワインの迷宮に入り込んでいった。それだけ奥深いワインの魅力を少しでも多くの人に何としても知ってもらいたいとの思いが、売上を上げることよりも優先されている。
自分が惚れ込んだ商品の魅力をまず知ってもらいたい、経験してもらいたい、そうした思いがいつの間にか西田酒店の商いの信条となり、他の酒販店にはない個性的な色合いに染まり、業界において知る人ぞ知る存在となった。そのことがマダムのさらなる向上心に火をつけている。ワイン好きがワイン談義に花を咲かす店、それがマダムのめざす店づくりなのかもしれない。
インタビューを終えて・・・
ワインを愛する気持ち、ワインを楽しむ心、ワイン文化を育む営みをこれからも継続していくことで、ワインを語らせれば右に出る者がいない情熱的なマダム櫻子ワールドの輪が益々広がり、七尾から世界につながっていくことを願って止まない。