石川県産業創出支援機構(ISICO)では、石川県内で頑張っている繁盛店を取材し、商い益々繁盛店としてご紹介いたします。
石川県の繁盛店をご紹介!
<商い益々繁盛店>オーディオファミリー(白山市)
我々が想像するオーディオショップとは趣を異にする、ロフト付き木造平屋の手造りの建物がオーディオファミリーの店舗である。店内に一歩足を踏み入れると、マニア垂涎(すいぜん)のアンプやスピーカーが所狭しと個性を主張し合う独特の雰囲気に包み込まれる。そこはもう「オーディオは使いこなしが大事、使いこなすと愛着が湧き、その経年変化を自らの耳で確かめ経験を重ねてきた」と自負する店主、西本孝一氏の熱い思いが集約された西本ワールドに他ならない。
●意志あるところ道は拓ける
「好きな仕事に就けたこともあって、売上キャンペーンなどがあるとがむしゃらに頑張った。新入社員ではあったが常に成績は、上位に食い込んでいた」と誇らしげに語る。ところが、気が付くといつしか利益追求に走る会社の経営方針と、自分がこれだと思ったものを顧客に勧めたいと思う西本氏の間の溝が大きくなっていた。「そんな悶々とする日々に嫌気がさし、一度しかない人生だから自分のやり方がどこまで世間に通用するのか、自分の能力を試したいと思った。とはいえお金がないから店舗を借りることもできず、まずは自宅の6畳一間を店に、自分のやり方で商売になるのか挑戦すべく独立した」と振り返る。当時は法律的な知識も無く、勤めていた店の顧客リストを写して退社したことから、独立当初より会社側から各メーカーに圧力をかけられ、商品流通がストップし、注文しても商品を入れてもらえない現実に直面する。二十歳そこそこだった西本氏は、会社の看板の力を思い知らされる。そんな限られた条件下で顧客の満足度をいかに高めるか、試行錯誤の日々が始まったのだが、「今思えば、あの時の苦労があったおかげで今日の自分があるだけに、むしろ苦労させてもらえたことに感謝している」としみじみと語る。壁を乗り越えた達成感は西本氏の人生にとってかけがえのない財産となった。
● 自分にとっての二つの課題
「勤めていた当時、責任者から『西本君は、お客様のためと言いながら、自分の売りたいモノを上手く売っているだけだろう』と言われ、休みの日には機材を持ち帰り、組み合わせの相性を自分なりに勉強し、その経験をベースにお客さんが納得する商品を勧め商いが成立していると反論したところ、『それじゃ君は全ての商品を知っているのか』と詰問された。当時、まだまだ自分の経験範囲は限定されていたし、全ての商品を知ることなど不可能で、そのことが自分にとっての宿題になっていた。もう一つは、メーカーとの取引が始まる前に興信所の調査があり、その所長さんが6畳一間の私の店にやってきて、一通りの質問をされ30分ぐらいで終了した。その後、プライベートに音楽を楽しまれ、いろいろと仕事に関する質問をされた。帰り際に『君は重い荷物を背負って綱渡りするような人生をやっていくよ。山に例えると、山頂を縦走するような厳しい生き方を選んでいる。いつか想いが実現できるかもしれないが、最後は肩に背負ったお客さんが重くなりすぎて、多分ダメになるよ』と言われた。つまり、お客さんが増えすぎて自分一人の手に負えなくなること。この二つのことが常に胸につかえていた」と明かす。
●原理原則と人財育成で壁を克服
その壁を何とか克服しなければと思い悩んでいたところ、ある時期、それを両方ともクリアできる答えを見つける。「それは原理原則論です。すなわち、全てのスピーカーを知る必要はない。スピーカーの原理はこう、アンプの原理はこう、アナログプレイヤーはこう、CDプレイヤーはこうといったそれぞれの原理さえ押さえれば、あとは音楽の感動を得るためにその原理を使って遊ぶ。このことによって全ての商品を知る必要はないことに気付いたのです。」もう一つの重い荷物を背負った部分については、「私の得たノウハウをユーザーに教えることで、一人ひとりのお客様が私のように自分で自分のことができる人になればいい。つまりオーディオファミリーのユーザーを育てること。個人商店でも大企業でも同じことで、自分の信念を貫くためには、人財の育成しかないことに追いつめられた状況で気付かされた」としみじみと語る。
●目的と手段を取り違えてはいけない
私は手段としてのオーディオ機材を販売していますが、目的はあくまでもその手段を通して音楽の感動を得ること、これがオーディオの楽しみです。ところが、今の世の中は手段と目的を取り違えていることがものすごく多いように思う」と西本氏は嘆く。自分の空間で音楽の感動を得るための道具として様々な手段が必要で、その時々に相応しい方法論が成り立つわけだ。「ただ、この手段を目的化してしまうと、手段の優劣が価値観になって本末転倒になる」と力説する。そのことに気付いた経緯を尋ねると、「若い時に友人と能登に魚釣りに出かけ、最先端の道具自慢をしながら防波堤で釣り糸を垂れて語り合っていたが、肝心の黒鯛が全く釣れなかった。ところが、明け方になって近所のお年寄りが竹竿に太い糸と大きい針を付けただけの釣り堀で使うような竿を持ってきて、あっと言う間に黒鯛を釣り上げる姿を目の当たりにした。その驚きとショックは今も鮮明に覚えている。その瞬間、自分が目的と手段を取り違えていることに気付かされ、この時から経験主義になり、経験しないと他人様に勧められないことから、いろんな機材を経験し、授業料も払った。例えば同じ機材の組み合わせであっても、部屋によって音が違う基本中の基本も学んだ」と回想する。
●商いの第一歩は自分を売る
「初めて来店されたお客様は、わざわざ分かりにくい私の店を探して来られるわけですから、それなりの情熱と好奇心を持っています。従って、その日は自分のポリシーを知ってもらうことに時間を費やし、決して商売の話はしません。と同時に、お客様に基本的なノウハウをお教えします。それは左右のスピーカーから同じ音が出ているかどうか、直接音と部屋の反射音のバランスを揃えることがとても難しく、そうしたノウハウをまずお教えします。そして商品を売る前にお客様の部屋を必ず見に行きます」という徹底ぶりで、商品を売る前に自分を売る、商いの原点を実践している。
●顧客本位の商いに徹す
メジャーにならなくても、みんなに知られなくても、縁があって出会った人たちと共に楽しい人生を歩んでいきたい。そんな西本氏の心意気に共鳴した顧客たちが、機材や労力を提供し、家族も総出で板を削り煉瓦を積んで作り上げた手作りの店が何よりの自慢であり、西本氏の勲章でもある。「建築会社に任せればお金がかかります。そのお金はお客様からの利益であり、自らが動くことで経費を減らせば、その分をオーディオに投資でき、結果としてお客様に還元できるからです」と、常に顧客本位に物事を考え、行動する姿は学ぶところが多い。「私がノウハウを教えてきたユーザーの中にいい音を鳴らす人たちが増えてきている」と嬉しそうに語る笑顔の向こう側に、文字通り音を楽しむことが好きでたまらない、オーディオファミリーを支える面々の顔が見えてくるようにさえ感じられた。
■インタビューを終えて
「6畳一間でスタートした当時に思い描いた青写真をほぼ実現できただけでなく、長男が私の人生哲学を仕事や友人関係に活かしている姿勢が嬉しい」と満面の笑みで語る。熱烈なファンに支えられ、創業30周年。西本氏の音へのこだわりに共鳴するオーディオファミリーの輪は益々広がっていくに違いない。
商 号 オーディオファミリー
所在地 白山市宮永町229番地
創 業 昭和52年