(財)石川県産業創出支援機構の「石川発!お店探訪記」金沢・加賀・能登 頑張るお店では、石川県内の実店舗・ショップを訪問し、取扱商品の特徴・売れ筋、店づくりや店舗展開・経営方針、顧客サービスや今後の課題などを取材して、頑張っているお店の魅力を紹介していきます。
金沢・加賀・能登 頑張るお店 酒かどや商店
80年以上の長きにわたり山代温泉街に店舗を構え、地元に支持され続けている酒屋が、酒かどや商店である。かつては地元の温泉旅館が売上の大部分を占めていた同店だが、世の中がバブルに沸いていた好景気の間に、温泉旅館から地元の一般客へ商いのウエイトを180度転換。
バブル崩壊後の相次ぐ倒産・廃業の影響を受けることなく、堅実な商いを営んでいる上出栄一さんにお話を伺った。
●バブル期に個人客主体にシフト
昭和60年代まで、同店の売上の大部分を温泉旅館が占めていたが、現在(平成19年)は1割程度にまでそのウエイトを下げ、店頭販売と配達が5割、残り4割が県外発送という内訳に取引内容を様変わりさせている。
温泉旅館は経営危機に陥ると売上金を回収できない危険性が高く、被害額も大きい。「私はリスクを伴う商いから早く脱皮したいと考え、バブルの最中に温泉旅館との取引を極力減らし、店頭販売をはじめとした個人客主体の商いにシフトしました。」と路線転換の経緯を語る。
●こだわりの地酒・ワインに特化
日本酒の品揃えは、石川県内の地酒で、なおかつ蔵元としっかり交流ができている銘柄に絞って取り扱っている。なかでも白山の菊姫、地元の常きげんなど加賀の酒、能登の池月・白菊が主力商品である。「他店にない特徴を出すことを心掛け、県内外のお客様に私が自信をもってお薦めできる地元の美味しいお酒を揃えています。」と力を込める。
ワインの品揃えは、東京で毎年1回開催される食品と飲料の総合展示商談会である『FOODEX JAPAN(国際食品・飲料展)』に自ら出向き、自分の舌に叶うものに出会えると、それを仕入れるというやり方だ。これを30年近く毎年続けてきているという。自分が試飲して美味しいと思ったワインだけに、自信を持って顧客に薦めることができるわけだ。
●個性的なブログが評判
同店のホームページ開設は古く、インターネットが産声を上げた十数年前に遡る。「パソコン通信の時代から趣味でいろいろやっていましたから、その延長線上で試行錯誤しながら作ったホームページです。何しろ素人のやることですから、見栄えはパッとしませんが・・」と苦笑する。
ホームページの中でも『町の酒屋のカウンター物語』と題したご主人のブログ欄は、そのユニークなコメントが評判になっており、地元のブログ仲間や固定客からの反応も上々で、人気のコーナーとして定着している。
固定客に向けたメールニュースでは、食べ物に旬があるように、お酒にも旬があることをキーワードに、その季節の飲み頃のお酒を紹介している。
ホームページを介しての注文は、新規もある一方で離れていく顧客もあるため、なかなか増やすことは難しいようだ。「ホームページに必要以上にコストをかけても、日本酒の場合は利幅が少ないので採算が取れません。それよりも、店頭で試飲していただき、話をしながら、納得して買っていただく商いに力を入れていきたい」と店頭販売を重視する。
世の中にはプレミアムが付き、蔵出し価格の何倍、何十倍にも化けたお酒が出回っている。それについては、「私は酒屋としてそうした商いはしません。それだけの価格に見合った値打ちはないと思います。リーズナブルな価格でもっと美味しい銘酒がたくさんありますから、そんなお酒を紹介したい。」と、プレミアム販売には否定的だ。
●菊姫の快挙で日本酒に光が
菊姫の『鶴乃里』が、モンドセレクションでグランプリを受賞したことは、全国的にも大きなニュースになり、蔵元が19年11月から出荷を始め、本来なら1年かけて販売する予定本数が年内に全て完売という反響の凄さだ。
長らく停滞ムードが漂っていた日本酒業界にとっては、一筋の光明が差し込んだような嬉しい出来事であり、国内だけでなく海外からも日本酒に注目が集まり、その貢献度は計り知れないものがある。
●地元に根ざした地酒「純米酒やましろ」誕生
山代酒商組合の酒屋17軒が一致団結し、山代のための地酒を作ろうということになった。地元の温泉寺「薬王院」の井戸水が軟水で酒造りに適していたことから、その水を仕込み水に使用し、平成18年11月に地元の鹿野酒造で仕込み、ラベルの文字は薬王院長老の揮毫による「純米酒やましろ」が誕生した。同年12月販売の「しぼりたて」600本は予約完売。
「何よりも嬉しかったのは、予約の大部分が地元の人たちで、文字通り山代の地酒として認知されたことを仲間と喜び合いました。コンビニの台頭や日本酒人気が低迷している時だけに、仕掛け次第で日本酒が売れることを痛感し、我々も元気が出ました。」と振り返る。
初回の好評に自信を得て、翌19年は米も地元産にこだわり、自ら生産した酒米「五百万石」を用い、薬王院の井戸水で仕込みを開始し、12月7日に初搾りが行われた。19年産も上々の出来映えで、今回は4合瓶で2000本程度が販売される。
●厳しい時代を生き残るために・・・
「各酒蔵の造り手と消費者の間に立って、我々酒屋がどう関わっていけるのか、それが生き残りのために一番重要なポイントであり、地元の酒蔵へ頻繁に足を運び、こまめに最新情報をお客様に伝えていくことで、存在意義が出てくるのではないか」と持論を披瀝する。その意味では、ご主人のフットワークが物を言うわけだ。
「食品業界では『地産地消』がキーワードになっていますが、日本酒は伝統的な発酵食品文化の頂点にある存在だけに、それが廃れていくことは日本にとって大きな損失です。その意味で、地酒の良さ、美味しさ、魅力を、もっともっと消費者に発信していくことが、我々にとっての重要な役割だと思っており、来店したお客様に試飲を通して地酒の美味しさ、魅力を知ってもらう地道な努力をこれからも続けていきたい。」と取材を結ぶ。
■インタビューを終えて・・・
温泉街の中心地に店舗を構えている酒店と聞き、売上の大部分は温泉旅館だろうと推測して伺ったところ、そのウエイトは1割弱と知り、時代を先読みした経営判断に敬服。夫婦二人三脚で、来店客に試飲を勧める姿に、対面販売の商いの原点を見る思いがした。
(平成19年12月取材)
商 号 株式会社 酒かどや商店
所在地 加賀市山代温泉桔梗ヶ丘3-21
創 業 大正14年4月
資本金 1,000万円
電話番号 (0761)77-2131
営業時間 9時~20時
定休日 毎週水曜日