(財)石川県産業創出支援機構の「石川発!お店探訪記」金沢・加賀・能登 頑張るお店 では、石川県内の実店舗・ショップを訪問し、取扱商品の特徴・売れ筋、店づくりや店舗展開・経営方針、顧客サービスや今後の課題などを取材して、頑張っているお店の魅力を紹介していきます。
-金沢・加賀・能登 頑張るお店- 油谷製茶
小売というのは、メーカーが製造した商品を仕入れて販売する商いであるが、多くの商品の場合、それでは生産者、問屋の段階で何が行われているのか全く分からない。そこに疑問を感じ、トレーサビリティーに責任の持てる商品をお客様に提供したい、そんな思いで30年近く前から茶葉の栽培から販売までを一貫して自社で行っているのが、宝達志水町に本社を構える油谷製茶である。
油谷祐仙社長にこだわりの商いを披瀝いただいた。
● 原料にまで遡って責任のもてる商いに徹す
大正時代に油谷社長の祖父が、お茶の担ぎ売りを始めたのが商いの原点である。先代が製茶機械を導入し、静岡から原料となるお茶を買いつけて加工する商いに転換し、三代目の油谷社長は静岡と熊本の契約農家で栽培された茶葉のみを原料に用い、本来、産地の問屋が行っている業務を自社工場で全て行っている。
一般のお茶販売店は、静岡の問屋から10kgあるいは20kg単位で送られてきたものをブレンドし、個包装したものに自社のラベルを貼って店頭販売している。その点、同社の場合は、農家から直接納品された茶葉を自社工場で一貫加工し、販売までを完結させているため、コスト的に中間マージンを取る業者が入らないメリットがあるだけでなく、何よりも「安全・安心」がこれだけ喧しく言われる時代にあって、トレーサビリティーが厳格に管理されている。
現在、HACCPに対応したJONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)の有機JAS認定を取得すべく、5年計画で取り組んでいる最中でもある。そこまで取り組んでいる製茶業者は全国でも数社程度で、その中でも先駆けとなるべく奮闘中だ。
● こだわりの茶葉栽培
自社の商品に対する思い入れは熱い。例えば、他とは違う蒸し方、農薬を可能な限り使わない、契約農家に対して覆いを被せて色を良くする作業工程の指示や摘栽時期まで細かく指定している。収穫された茶葉を現地で蒸して揉み、荒茶ができる。この荒茶は水分量が8%~5%で、そこから茎や棒などの不純物を全て除外して乾燥させると、水分量が2%~3%に抑えられ、日持ちするようになる。
店頭で販売されているお茶には賞味期限を入れているが、実のところお茶に賞味期限はないそうだ。
お茶の北限は、新潟県村上市がこれまでの常識だったが、地球温暖化の影響で、今では岩手県でもお茶が生産されるようになってきている。とはいえ、「長年培った技術がある静岡のお茶に勝るものはありません。」と太鼓判を押す。
その意味で、ここにきて盛んに言われるようになった農商工連携を30年ちかく前から実践してきているわけで、全てのお茶に生産者名が明記されている。
● お茶の美味しい飲み方を伝授
かつては卸しもやっていたが、今は一部地元スーパーへ卸しているものの、ほとんど直売に切り替えている。
羽咋市、七尾市、白山市に各1箇所ずつテナントとして出店し、それ以外は、石川県物産協会が主催する全国各地の百貨店で開催される物産展に参加して販売している。と同時に、地方の百貨店に自社商品を置いてもらうべく営業活動に余念がない。
直営店では、お茶の試飲はもちろん、お茶の入れ方を丁寧に教えることに力を注いでいる。いくらいい茶葉を使っても入れ方が間違っていては本来の美味しさが味わえないからだ。
「お茶は、自分で入れるという工程を経ないと飲むことができません。そのためには、どんな水を使うか、お湯の温度は何度がいいか、蒸らす時間は・・、といったそれぞれのお茶に最も相応しい入れ方をきちんと教えることも大切な役割で、お客様最優先でやっています。」と力説する。
● 物産展は貴重な営業の場であり情報収集の場
売上に占める顧客の比率は県内が6割、県外が4割という。県外の顧客開拓は、各地の百貨店での物産展の来場者を取り込む格好で営業している。
「地方の物産展で直接お客様からいろんな意見をいただくことで、お客様のニーズに合った商品を作るための参考にし、翌年の商品づくりに反映させています。」と語るように、その地方その地方で、味の好みが異なるため、行く地方によって持っていくアイテムを変えているとのこと。
北海道は、ほうじ茶のような香ばしさや熱いお湯で飲むものが好まれる。関東は、香りの強いお茶が好まれる。関西は、香りは薄くてもいいから、いいものを何回も使いたいという傾向がある。山陰や中国地方へ行くと、お茶に添加物を入れて味付けしたものが好まれている。九州方面は甘口のお茶が好まれ、食文化も甘い傾向がある。このように地方によってお茶の売れ筋が異なるのだ。
昔からお茶に添加物を混ぜて美味しくする手法が普通にやられているというのには驚かされた。油谷社長は「それが嫌で、安全で安心なものを消費者に提供したいと思い、静岡の農家を廻って、信頼できる契約農家を開拓していった。」と今の商いのやり方に方向転換した真相を語ってくれた。
そうしたお茶の安全・安心に対する思い入れ、意気込みを物産展の来場者に訥々(とつとつ)と話して納得したお客様に買ってもらっているため、一度ファンになれば離れることはない。とはいえ、不景気になると、今まで1500円のお茶を飲んでいた人が1,000円のお茶に単価が下がることで、販売量は同じでも売上が下がることは否めない。
● 完全無人化工場の稼働に邁進
食品は人間の手が触れるとトラブルの元になることから、製茶工場内は可能な限り自動化されており、衛生面でも安全な工場になっている。
「お茶の産地でもないところにある店が、仕上げ加工を自前の工場でやっていることは考えられないとよく言われますよ。」と工場設備への自信を覗かせる。
現在の製茶工場はかなりのレベルで限りなく自動化に近いものではあるが、これを完全無人化の無菌室を備えたHACCP対応の工場にすることが当面の目標であり、既にその実現に向けて動き始めている。参考になる店や工場があると聞けば、物産展で全国各地へ出向いた際に、足を延ばして現場を見に出かけ、常に新しい情報の収集に貪欲に取り組んでいる。
● 全てはお客様の満足のために
「商いをする上で一番大切な宝物はお客様です。買って下さるお客様がいなかったら商売は成り立ちません。」と断言する。 この言葉が、油谷製茶の全てを表現していると言っても過言ではない。
すなわち、安全・安心なお茶をお客様に飲んでもらいたいとの思いが、商いのポリシーであり、そのポリシーに感銘を受けたファン客が全国にいる。
商売人にとってこんな幸せなことはないのではないだろうか。
インタビューを終えて・・・
近年、後を絶たない食品偽装で食品メーカーに対する信頼を失いつつある消費者の一人として、当たり前のことを当たり前に、きちんとやっている油谷製茶さんに出会え、ほっと胸を撫で下ろす思いだ。お客様第一と口で言うのは容易いが、有言実行し続けてこそ真の商人なのではないだろうか。